※本コラムは、2025年4月21日に当社が運営するnoteに掲載された記事です。
このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。
戦争は多くの国民に犠牲や困難を強い、一部の人には巨万の富を与えると言われる。戦争が最大の消費、それはモノ、財の消費だけではなく、国民の命をも消費することは疑いのないところだが、その一方で富を手中にできる機会になることさえある不条理極まりないことなのである。
もっとも普通の社会においても、立場を利用した汚職などが起きるのだから、取り立てて騒ぐものでもないかもしれない。
しかし、戦争は無理やり国民を戦地に赴かせ、命を保証することはない。苦難を強いられる国民がいる中で、あらゆる手段を弄して戦争ビジネスで財を築くのは、私たち貧しい者が抱く嫉妬や妬みとは無縁な、極めて非常識であり不合理な出来事なのだ。
世にいう太平洋戦争、第二次世界大戦を通じてこうした冨を手にした人々は結構いるようだ。その中でも特筆すべきは政商・児玉 誉士夫(こだまよしお)であろう。
【1938年に日中戦争が始まった。翌1939年、(児玉 誉士夫は)外務省情報部の懇意の笹川の紹介で採用され、海軍航空本部の嘱託となった。(中略)この縁で上海に児玉機関と呼ばれる店を出した。これは、タングステンやラジウム、コバルト、ニッケルなどの戦略物資を買い上げ、海軍航空本部に納入する独占契約をもらっていた。よく、児玉はこの仕事でダイヤモンドやプラチナなど、1億7500万ドル相当(1ドル360円で約630億円)の資金を有するに至ったと言われている]。アメリカ陸軍情報局の報告では、児玉機関は鉄と塩およびモリブデン鉱山を管轄下におさめ、農場や養魚場、秘密兵器工場も運営。戦略物資、とくにタングステンを得るため、日本のヘロインを売っていた。】
「ウイキペディア」
政商とは。読んで字の如く一言でいえば、「政府や政治家と結託して特別な利権を得ている商人」を表す。
こうした政商の有り様も、時代によって大きく変わるようだ。表面的には違っていても、政治が経済や会社経営に与える力、政商の存在と影響力は変わりない。
かつての政商の代表例が右翼の児玉誉士夫であるとすれば、近代経済社会における政商として挙げられるのは、竹中平蔵であろう。
日本の雇用環境の中で最も問題になったのが非正規雇用の拡大である。もともと日本にはパートタイマー労働に代表される非正規雇用の存在はあったが、パート労働が主として短時間の労働に従事する労働を指していた。これに対して、非正規雇用というものの従来のパート労働とは全く似ても似つかない派遣労働などが現れる。人材派遣会社の出現である。人材派遣会社はその名のとおり、「人」を労働力として求める会社へ派遣し利益を上げる会社である。
労働者を必要な会社に派遣する制度は、もともと江戸時代には「口入屋」として存在していた。これはテレビや映画で描かれている職業で、私たちにも身近な存在でもあった。はるか昔の職業として認識しているだけで、特別な制度として考えられてはいなかった。しかし、それが紆余曲折を経て、現代では「労働者派遣」という姿で公になっている。とくに、1986年には国会で「労働者派遣法」として法律で正式な事業として認められたのである。といっても、当初の法律では派遣が認められる職業は限定的で、秘書やタイピストなど極めて専門性を必要とする職種に限定されていた。そのため、一般的には広く知られてはいなかった。
この動きの中で、最も重要なことは派遣される労働者が「正規社員」か「非正規社員」という処遇の基本が疎(おろそ)かにされたことで、「非正規社員」が拡大していく要因になった。
「労働者の派遣」制度が合法化されることによって、それまで正規社員制度によって解雇などに規制がかけられていたものが、相対的に使用者に自由な裁量が与えられる雇用制度に変質していくことになる。
同時に人材派遣会社が設立、急激な成長を遂げていくことになる。その中心にあったのが某人材派遣会社(とくに名を秘す)の会長として君臨していた竹中氏だったのである。
自らの利益を上げるために、政治を利用する政商の出現は、その国の経済の在り方をゆがめていく。たとえば、非正規雇用が増えると、それまで規制されてきた企業の雇用への責任、すなわち解雇権の濫用がみられるようになる。極端にいえば、理由の如何(いかん)を問わず経営側の一方的な解雇が行い易(やす)くなる。しかもそれが倫理的・道徳的な企業行動を無意味なものに形骸化させていくのだ。その流れの中核に位置するのが政商と呼ばれる人々、あるいはそうした行動を許す法律の制定なのである。
現に非正規雇用の増大が、労働者の雇用を不安定にさせ、なおかつ処遇を低く抑えることで、正規雇用の処遇さえも抑えるという、企業にとっては都合のいい制度に発展させていく。非正規雇用に無関心な労働組合に対しては、その足を引っ張ることで全体の労働者の権利をコントロールしていくのである。
歴史を見るまでもなく、社会の進歩と労働者の権利向上は表裏一体で進められてきた。つまり社会の監視の目を緩めると、労働者の権利は絶えず侵害されていく運命にあるといってよい。
そもそも労働法は、
【労働法制は企業の利益ではなく、労働者の権利を守るためのものです。労働法制を本来の在り方に戻さない限り、現在の流れを止めることはできません。】
「日刊SPA」森功 4月30日
ところが問題は、
【労働規制緩和を進めてきた竹中氏が、その恩恵をうけるパソナの重役に就いたことです。竹中氏は06年9月に政界引退を表明しましたが、その翌月にはパソナグループで講演を行っています。それから4か月後の07年2月にパソナの特別顧問に就任、09年8月には同会長に就任しています。】
同上
という状況になっていることである。
政治で労働規制の緩和をすすめ、その規制緩和を利用する会社をつくり利益を上げようとする。こうしたことが許されるなら、政治を自分の会社の利益にあげることに利用する傾向は強まるばかりになる。
私たちが一生懸命に働いている一方で、政治に働きかけて自らの利益ばかりを考える政商が繁栄するのはどう考えてみても不合理である。理不尽がまかり通り社会では、真面目に働くことがバカバカしくなり、長い目で見れば衰退の道を歩むことになりはしないか。
私たちは、間違いを指摘しつつも、真面目にコツコツと働くことによって、胸を張って社会に貢献する労働者であることを誇りにしていきたいものである。
この記事を書いた人
鈴木 勝利
Suzuki Katsutoshi
元連合副会長・元JCM議長(現顧問)
元電気連合委員長(現名誉顧問)
2012年春の叙勲において旭日重光章を受章。

