※本コラムは、2025年5月21日に当社が運営するnoteに掲載された記事です。
このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。
今は一般的に使われる「経済」という言葉があるが、実はこの言葉には大変重い意味がある。
私たちは経済という言葉を簡単に使うが、そもそも国の「経済」とは、中国の古典である隋代(581年~619年)の王通「文中子」(儒学者王通とその弟子たちの対話を記録したもので10巻からなる。なお、王通と文中氏は同一人物)にある「経世済民(けいせいさいみん)」の記述が語源といわれる。
「経世」は「世を治める」という意で、「済民」は「民を救う」という意である。「世」は「国」と同義語だから、「経世」とは「国を治める」意味であり、「経世」を「経国」と言い換えて「経国済民」ともいう。
だから「経済」とは、国を豊かにする(国を治める)ために、国民に生活の根源である働く機会が提供できて初めて「経済」といえるのである。国民に労働の機会を提供できないで「経済」とはいえない。日本は法人税が高いから、人件費が高いから、と、海外のみの生産になったのでは、しかもそれがグロ-バル化の先端をいっているような評価がされるようでは、明らかに間違っている状況と言わざるを得ない。
一時期、国内の雇用に貢献せず、海外での雇用で成り立っている企業を称して「ユニクロ栄えて国滅ぶ」と言われたがまさに名言といえるのである。
ユニクロの新卒社員が入社後3年以内に退社した割合(離職率)は、2006年入社組は22%、2007年入社組は37%、さらに2008年~2010年の入社組は46%~53%と高まっていった。直近の入社組は、同期のおよそ半分が会社を去る計算になる。休職している人のうち42%がうつ病などの精神疾患で、これは店舗勤務の正社員全体の3%にあたる。
「朝日新聞・朝刊」2013年4月23日
上記の数字は若年失業者の増大を背景に「大量採用・大量解雇」を繰り返した結果であり、そのためにブラック企業と呼ばれたこともあった。
我々が安く人をこき使って、サービス残業ばかりやらしているイメージがあるが、それは誤解だ。
「朝日新聞・朝刊」2013年4月23日
作業量は多いが、サービス残業をしないよう、労働時間を短くするように社員には言っている。ただ問題がなかったわけではなかった。グローバル化に急いで対応しようとして、要求水準が高くなったことは確か。店長を育てるにしても急ぎすぎた反省はある。
「朝日新聞・朝刊」2013年4月23日
ブラック企業の汚名にこう反論する一方で、
日本の電機の一番の失敗は日本に工場を作ったことだ。安くて若い圧倒的な労働力が中国などにある。関税も参入障壁になるほどの高率ではないから、世界中にもっていける。本当は(安い労働力を使って世界中の企業から受託生産する)鴻海(ホンハイ)精密工業のような会社を日本企業が(国内生産をやめて海外に)作らないといけなかった。
「朝日新聞・朝刊」2013年4月23日
と述べるように、利益のためには日本国内での雇用には一顧だにしない。
経済とは元々「経国済民(けいこくさいみん)」の意味を持つ言葉である。では経国済民とはどういう意味か。それは「国を治め民の生活を安定させること」をいう。
今、常識的用語として使われる経済という言葉が、「国を治め民の生活を安定させる」ことを意味するなら、果たして経済の根幹をなす会社の経営者の中で、この経済の意味を本当に全(まっと)うしている会社はどのくらい存在するのだろうか。
激化する国際競争を勝ち抜くために、国内の雇用には何の関心を抱かずに簡単に海外進出を図ったり、従業員の雇用確保に努力すらしなかったりする経営者が存在する現実から何が産まれるのか。
こうした経営方針が「良し」とされるならば国内の失業者は増大していくのは明らかである。故に「経済をないがしろにする企業」という汚名を着せられてしまうのである。
しかし現実には、こうした企業が好業績を上げ、世間から称賛を浴びる場合もある。理由の如何(いかん)を問わず、業績を上げれば評価されるということか、わからないことの一つである。
その一方で、今までに見られなかった新しい働き方が出現してきたのだ。ネットを通して働く方式だ。アマゾンの配達員がその典型的な例である。労働基準法でいう「労働者」の定義に見合うのか、議論が始まっている。
アマゾン配達員などネットを介して働くプラットフォーム(PF)ワーカーの権利保護を見据え、厚生労働省は2日、法律上の「労働者」として認める条件について、見直しを含めた議論を始めた。(中略)例えば、仕事の際に使用者の指揮監督がある▽勤務場所や時間などが決まっている▽一定時間労務を提供したことに対して報酬が決まる――といった要素で、主に雇用契約を結ぶ会社員など、働き方の裁量や自由度が限定されている働き手が、こうした要素を参考に総合的に「労働者」と判断され、法律上の保護を受けてきた。
一方、近年は、ネット通販大手「アマゾン」や飲食宅配代行サービス「ウーバーイーツ」の配達員など、スマートフォンのアプリなどを介して仕事を請け負うPFワーカーが登場している。
「朝日新聞デジタル」2024年5月2日
こうした対象者には今までの法律による最低賃金や残業料の支払い義務はないとされる。だが、
アプリなどで使用者側から配送ルートなどの指示を受けつつ、GPSで働く状況を逐次把握されながら指示を受けるなど、使用者側に「指揮監督」されている実態があり、「労働者」として労災が認められるケースも出てきた。
厚労省も2023年に労災などの認定の事例集で、個人事業主の配達員の実態を紹介。「アプリを通じて、荷物・配送先・配送順・配送コース等が割り当てられる」「荷物については配送を拒否することはできない」などと記し、PFワーカー保護の必要性を示していた。
厚労省幹部は「一人一台のパソコンもない時代の働き方とスマートフォン片手に働く状況は全然異なる。40年も見直してこなかったのはさすがにまずい」と条件の見直しの必要性を強調した。
「朝日新聞デジタル」2024年5月2日
やっと重い腰を上げた形だが、すでにアメリカでもヨーロッパでも、雇用関係のある労働者と推定し、保護する指令を採択している。全ても経営者が世界の常識に後れを取ることなく、経済の主要な一部である「労働者保護」の重要性を再認識し、経営に携わることを願う今日この頃である。
この記事を書いた人
鈴木 勝利
Suzuki Katsutoshi
元連合副会長・元JCM議長(現顧問)
元電気連合委員長(現名誉顧問)
2012年春の叙勲において旭日重光章を受章。

