ここ数年の春闘では、高い水準の賃上げが続いています。
2026年春闘でも、連合の最終集計では平均賃金方式の賃上げ率が5.01%となり、3年連続で5%台となりました。
では、この賃上げの流れを、一時的なものではなく持続的なものにしていくためには、何が必要なのでしょうか。
2027年春闘では、「どこまで賃上げを求めるか」だけでなく、「賃上げを続けられる企業や職場を、労使でどうつくっていくか」という視点も重要になります。
そのためには、春闘での交渉だけでなく、人への投資や生産性・付加価値の向上など、日頃の取り組みをどう賃上げにつなげていくかを考える必要があります。
本コラムでは、2027年春闘を前に、持続的な賃上げと日頃の労使協議とのつながりについて考えます。
1.「5%前後」の賃上げの流れを、持続的なものに
2026年春闘では、3年連続で5%台の賃上げが実現しました。
今後も、物価上昇を上回る賃金上昇を継続し、働く人の生活水準の向上につなげていくことが重要です。
そのうえで考えておきたいのが、こうした高い水準の賃上げを、どのように持続させていくかということです。
一つには、物価上昇を上回る賃金上昇を継続し、働く人の生活水準の向上につなげていくという考え方があります。
連合も2026年春闘では、日本の実質賃金を1%上昇軌道に乗せ、それを今後の「賃上げノルム」としていくことを掲げました。
単年度で大きな賃上げを実現するだけではなく、「賃上げがあたりまえ」の状態を社会に定着させていくことが、これからの大きな課題の一つになっています。
一方で、物価上昇率が変化していくなかで、「物価が上がっているから、それ以上に賃金を上げる」という考え方だけで、今後も高い水準の賃上げを続けていくことは難しくなっていくかもしれません。
だからこそ、これからは「いくら賃上げするか」と同時に、その賃上げを継続できる企業や職場をどうつくっていくかということも考えていく必要があります。
2.持続的な賃上げを支える、付加価値と人への投資
持続的な賃上げを実現していくためには、企業が生み出す付加価値を高め、その成果を働く人へ還元していくことが重要になります。
そのために改めて目を向けたいのが、これまで労使で進めてきた働き方改革や人への投資です。
働き方改革ではこれまで、長時間労働の是正や業務効率化など、働く時間や業務の進め方を見直す取り組みが進められてきました。
こうした取り組みを継続する一方で、近年はさらに、一人ひとりの能力発揮を促し、仕事から生み出される付加価値を高めていくことが重視されています。
経団連は、前者を「労働投入の効率化」を進める働き方改革「フェーズⅠ」、後者を「付加価値の最大化」を目指す「フェーズⅡ」と整理し、フェーズⅠを継続しながら、フェーズⅡを深化させていくことの重要性を示しています。
経団連は2023年の春季労使交渉・協議においても、働き方改革によって生産性を高め、その成長の成果を賃金引き上げなどによって働く人へ適切に分配していくという考え方を示しています。
ここで労働組合として注目したいのは、生産性や付加価値を高めることだけでなく、そこで生まれた成果が働く人へどのように還元されているかという点です。
2027年春闘に向けて大切なのは、新たな取り組みを始めることだけではありません。
これまで進めてきた人材育成やDX、業務改革などが、生産性や付加価値の向上につながっているのか。そして、そこで生まれた成果が、賃金をはじめとした働く人への還元につながっているのか。
こうした点を、これまでの取り組みに照らして確かめていくことも重要です。
3.賃上げの好循環を、自社の中だけで終わらせない
こうした賃上げの循環を、自社の中だけで終わらせないことも重要です。
日本では、中小企業が全企業の99.7%を占め、そこで働く人は全従業者の約7割にのぼります。
社会全体で「賃上げがあたりまえ」の状態を定着させていくためには、中小企業にも賃上げの流れを広げていくことが欠かせません。
そこで重要になるのが、価格転嫁や取引条件の適正化です。
賃上げを継続していくためには、その原資となる収益を確保できることが前提となります。
原材料費や人件費などの上昇分を適切に価格へ反映できる取引環境を整えていくことは、中小企業における持続的な賃上げにも関わる課題です。
価格転嫁や取引条件の適正化は、自社の取引先で働く人の賃上げにもつながるテーマとして、労使で確認していくことも重要です。
連合も2026年春闘では、価格転嫁を賃上げにつなげることを掲げるとともに、適切な価格転嫁・適正取引を通年で取り組む課題と位置づけています。
自社の賃上げを実現することに加えて、賃上げの流れを取引先や中小企業へどう広げていくのか。
2027年春闘に向けて、労働組合として考えていきたいテーマの一つです。
4.春闘を「日頃の労使協議の総決算」に
ここまで見てきたように、持続的な賃上げを考えるうえでは、人への投資や生産性・付加価値の向上、そこで生まれた成果の還元、価格転嫁や適正取引など、さまざまな取り組みが関わってきます。
いずれも、春闘の交渉だけで答えを出せるテーマではありません。
だからこそ、春闘と日頃の労使協議を、一つの流れとして捉えることが重要になります。
春闘では、要求案の検討から要求提出、回答、妥結まで、一連の交渉が大きな節目となります。
しかし、その要求の背景にある企業の業績や職場の変化、人への投資、生産性や付加価値の変化は、一年を通じて積み重なっていくものです。
日頃の労使協議のなかで、会社や職場がどのように変化しているのか、どのような取り組みを進め、どのような成果や課題が生まれているのかを共有しておく。
その積み重ねがあれば、春闘でも、賃上げ率をめぐって交渉するだけではなく、共通の事実をもとに「次の賃上げや人への投資をどう考えるか」を話し合いやすくなります。
そう考えると、春闘は「日頃の労使協議の総決算」として捉えることもできるのではないでしょうか。
もちろん、2027年春闘を機に、年間の労使協議の仕組みを大きく変える必要があるわけではありません。
これまでも、経営状況や職場課題について、労使で話し合いを積み重ねてきた組織は多いでしょう。
そうした既存の対話を、「次の春闘」「次の賃上げ」とどうつなげていくのかという視点から、改めて捉え直してみることが大切です。
5.2027年春闘を、次の一年のスタートに
春闘が妥結すれば、一つの区切りを迎えます。
しかし、持続的な賃上げという観点から見れば、同時に次の春闘に向けた一年のスタートでもあります。
春闘で見えてきた企業や職場の課題を、その後の労使協議へつなげる。そして、一年を通じて積み重ねた取り組みや対話を、次の春闘へつなげていく。
こうした積み重ねによって、春闘は一年に一度の賃金交渉にとどまらず、持続的な賃上げに向けた取り組みを確かめ、次の一年へつなぐ節目にもなります。
この2~3年で、社会には大きな賃上げの流れが生まれました。
これから問われるのは、この流れを一時的なものにせず、働く人の生活の継続的な向上につなげていけるかどうかです。
ここ数年に生まれた賃上げの流れを、より確かなものにしていく。そのためにも、2027年春闘を、これまでの労使の取り組みを振り返り、次の一年を考える機会としてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
吉川 政信
j.union株式会社 代表取締役社長
主にユニオンビジョンの策定、人財育成計画づくり、春闘支援を担当。労組の皆さまとの論議の進行や各種プロジェクトのコーディネートを通じて、「構想で終わらせない」具体的な推進を常にサポートしている。


