道しるべ#2「私にとってのワーク・ライフ・バランス」

2026.05.20 


このコラムでは、元電機連合 書記長、元東芝労働組合 中央執行委員長、
東芝グループ連合初代会長として、長年にわたり労働組合の現場と向き合ってきた泉田和洋が、
自身の経験をもとに、今の組合役員や組合員と一緒に考えていきたいことを綴ります。


「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」という言葉を使い出してから久しいですが、「ワーク・ライフ・バランス」について、今、思うことを話させていただきたいと思います。

「ワーク・ライフ・バランス」の概念は、1800年代前半のイギリス産業革命期に、工場労働者、とくに、女性や子どもの保護を目的に労働時間を制限する制度が初めて設けられたことに遡ると言われています。

現代的なコンセプトは、1980年代後半のアメリカにおいて、女性の社会進出に対応して、「仕事と子育ての両立支援に向けた民間企業の取り組み」から生まれたものとされ、取り組み当初は、働く女性のための保育支援が中心であったことから、「ワーク・ファミリー・バランス」や「ワーク・ファミリー・プログラム」と呼ばれたとのことです。
その後、この取り組みは、性別や年齢に関係なく全ての労働者の生活を支援する「ワーク・ライフ・バランスの取り組み」へと進化・拡大していったとされています。

この取り組みの進化・拡大の根底には、仕事と生活の調和を図り、人としてのしあわせを感じながらの生き方をめざそうとする考え方が大きく流れていたのかもしれませんね。

この「ワーク・ライフ・バランス」が日本で意識されるようになったのは1990年代の後半だったように思いますが、私が組合役員として、「ワーク・ライフ・バランスの実現」への取り組みを始めたのは2000年前後からのことです。

その時期は、自組織で「ものの豊かさからこころの豊かさ」を求める運動を展開していた最中でもありましたので、「仕事と生活の調和をめざすワーク・ライフ・バランス」は時宜を得た取り組みとして力を入れて進めることにしました。

中でも、「こころの豊かさ」と「ワーク・ライフ・バランス」の実現に向け、「自分が望むこと・やりたいことを実現するための自由時間の拡大」や、「時代変化や家庭状況に対応した勤務制度の拡充・新設」をめざし、春闘や通年の労使協議を通して、さまざまな制度整備を進めました。

具体的には、長時間労働の是正/年休の日数増/年休積立制度/半日休暇/時間休暇/育児・介護休職制度/育児・介護・看護休暇/フレックスタイム勤務制度/短時間勤務制度の導入などです。

この間、育児・介護休職、時間外労働の上限規制等についての法制化も進み、2007年12月には「ワーク・ライフ・バランス憲章」の策定(2010年改定)、2019年4月1日からは働き方改革関連法も順次施行されるなど、社会的にもワーク・ライフ・バランスに関する法整備が進められていきました。

近年では、新型コロナウィルス感染の中での業務遂行に向け、労使の話し合いのもと、リモート勤務・在宅勤務制度の導入がなされるなど、「ワーク・ライフ・バランスの実現」を図るための制度(環境)は相当に整備されてきていると思います。

しかしながら、国内外における企業競争、会社の経営状況、経営者、あるいは、個人の意識の持ち方によって、個々人の「ワーク・ライフ・バランスの実現度」には未だ大きな差があるように思います。

確かに、生活の糧を得るためにも、また、自己を成長させていくためにも「仕事」は必要であり大事です。一方、一度限りの人生の中において、仕事を元気に前向きに続け、節目、節目にしあわせが感じられる活き活きとした生活を送っていく上では、仕事以外にも大切にしなければならないことがたくさんあるはずです。

その大切にしなければならないことは、ご家族とのことであったり、自己啓発のことであったり、趣味のことであったり、ボランティアのことであったり、健康のことであったりと、人によって異なるものであり、また、ご自分を取り巻く生活状況(環境)の変化に応じて変えていく(アップデートしていく)ものでもあると思います。

私は、労働組合での「ワーク・ライフ・バランス」の取り組みを通して、このことを学んだ気がいたします。また、「時間は戻せない」ということがありますが、「何かを始めようとする時、もう遅いということはない」ということにも気がつきました。

このことを踏まえれば、私たち一人ひとりは、「ワーク・ライフ・バランス」のうちの「ライフ」の部分について、今、「一番大切にしたいこと、あるいは、一番大切にしたいもの」は何かを決めて、労使の話し合いや法令で確立された各制度を有効に活用して、「自分なりのワーク・ライフ・バランスを実現していくこと」が、よりしあわせな人生を創り出していくことになるのではないでしょうか。

この実現に向けた労働組合の力強いご支援も是非お願いしたいと思います。
かくいう私が現役時代にとった行動は、「ワーク・ワーク・バランス」というアンバランスなものでしたので、現在は、その時の反省をもって、「家族とボランティアに重心をおいたワーク・ライフ・バランス」の実践に心がけています。

この記事を書いた人

泉田 和洋

Kazuhiro Izumida


j.union株式会社 顧問
元電機連合 書記長
元東芝労働組合 中央執行委員長
東芝グループ連合 初代会長
元株式会社コンポーズ・ユニ代表取締役社長

泉田 和洋