語りつぐもの #33「労働組合の社会的評価とは」

2026.03.20 お知らせ



 

このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利氏が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。

 

 

 機会を得て「語り継ぐもの」の連載を続けてきましたが、本稿をもって最後になります。この間、拙(つたな)い文章にもかかわらずご愛読いただいたみなさまに厚く御礼を申し上げます。

 

 最終号にあたって、労働運動が社会の中心であるように心がけてきた者として、その思いを綴っておきたいと思います。

 

 それは「社会的評価を失った労働運動」は衰退の道を辿るということである。歴史的には第一に産業革命の時代にみられる。

 近代産業を語るときに忘れてならないのは産業革命(1760年代~1830年代の長きにわたるので工業化時代ともいわれる)である。中学校の社会科を思い出すまでもなく、ワットの蒸気機関の発明がそれまでの産業の生産様式を一変させる

 

 工業化の中心となった産業は繊維と鉄鋼である。イギリスを筆頭に工場制手工業(マニファクチェア)が歴史から姿を消す。多くの労働者が手動の機織(はたおり)機械で職を得ていたが、蒸気機関で動く機械に取って代わられる(時系列でいえば1769年に水力紡績機、1779年にミュール紡績機、蒸気機関による紡績機は1785年にアメリカで発明される)。

 

 今流で言えばイノベーション、技術革新である。当然労働者が解雇され大量の失業者が発生する。工場労働者の世界では、失業の原因は機械化だとして、「機械がなければ失業しないで済むから」と工場へ忍び込み機械を打ち壊す。世に言う「機械打ち壊し運動」(ラッダイト運動・1811年~1817年)だ。今でいう「合理化反対運動」だが、社会の進歩に抵抗する運動が孤立し挫折するのはいつの時代も同様である。ラッダイト運動は急速に力を失っていく(イギリスでは首謀者を含む13人以上が死刑になっている)。

 

【1943年、第二次世界大戦中、アメリカの炭鉱労働組合のリーダー、ジョン・ルイスは、連邦政府による賃金凍結に反対し、炭鉱ストを指令、時の大統領ル-ズベルトは国益上ストの中止を訴えましたが、ルイスは「合衆国大統領の仕事は国益を守ることである。私の仕事は、鉱山労働者の利益を守ることである」と発言し、ストライキを強行する。
当時のアメリカは、戦時生産は立ち上がったばかりで弱く、ヨ-ロッパや太平洋で兵士が戦っていた。戦争は石炭を必要とし一日の生産量さえ失うことは出来ない状況であった。しかも鉱山労働者は、兵士の給料に比べて高給だったにもかかわらず、鉱山労働者の方が勝利してしまう。
しかし、その出来事に市民が激しく反発した結果、労働組合は、あらゆる力、影響力、敬意を失ってしまう。こうして鉱山労働組合はその力、影響力、組合員を失っていくのである。
そして、1943年に労働組合が勝利したのに、アメリカにおける労働組合運動は衰退の道を歩み始めるのである。】

P.F.ドラッカー著「ポスト資本主義」一部要約 ダイヤモンド社刊より引用

 

 賃金のみならず労働時間の短縮においても、近代労働運動の範といわれてきたドイツのIGメタルは、旧東ドイツの時間短縮を目指して2003年、旧東ドイツの傘下組合で大規模なストライキを敢行して格差圧縮を図ろうとした。しかし、経営者側は過去に例をみない熾烈さで抵抗をしたため闘争は長期化していく。このとき、最も決定的な影響力を持ったのは世論といわれる。世論の支持を失って孤立したIGメタルは、ついに要求を断念して闘争は終息する。

 

 日本ではどうだったのか。国民の重要な足となっているJRが民営化される前の旧国鉄時代、組合運動をめぐって多くの国民から批判を受けた。

 

 順法闘争と呼ばれたその戦術は、法を守る(順法)といいながら、ただただ交渉相手の当局を困らせることだけを優先し、毎日の電車の遅延など、利用する国民に対しての配慮をまったく欠いていた。

 

 電車の周囲にペンキで書き込まれたスローガンの汚さに顔をしかめる人々が増え始め、ついには日常化したダイヤの遅れと混雑に怒った利用者が暴動を起こしてしまう。

 

 世論を敵にして闘争が続く道理はない。その後の民営化でも、世論の支持を失った組合の主張は説得力を欠き今日を迎えているのである。

 

 日本の労働運動において、世論の圧倒的な支持を受けて勝利する特異なケースもある。1954年の「近江絹糸人権闘争」である。

 

 背景には会社のオーナーによる宗教の強制、寮における私物検査、私封書の無断開封。まさに労働者の人権は徹底的に無視され、組合はその廃止を求めて闘争に入る。闘争は106日に及ぶ長期にわたったが、全国の労働組合の応援だけではなく、内容を知った国民は労働組合を支持し、世論の支持を背景にした組合の主張が認められる結果になる。

 

 私たちは、闘争期間中の組合員の動揺や諦めを支えてくれたのが世論であったことを忘れてはならない。

 

 そうはいっても、無定見(むていけん)に世論に右顧左眄(うこさべん)すればいいといってるのではない。自分たちの主張や行動を常に点検し、誤りがあれば直ちに正し、正しいと確信する道を邁進(まいしん)していかなければならないことを示唆しているのである。

 

 
 

この記事を書いた人

 

鈴木 勝利

Suzuki Katsutoshi


元連合副会長・元JCM議長(現顧問)
元電気連合委員長(現名誉顧問)
2012年春の叙勲において旭日重光章を受章。

鈴木勝利 顧問