※本コラムは、2025年12月21日に当社が運営するnoteに掲載された記事です。
このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。
2008年3月、大阪市では自民党が提出した「職員の給与に関する条例の一部を改正する条例案」を可決した。それによって2009年度から大阪市職員のチェック・オフは廃止されることになった。
報道によれば、その背景には日常的な労使関係の混乱があるとされ、特異なケースと考えられるが、労使自決という原則が否定され政治が介入した例である。
今、あたり前に存在するユニオン・ショップ協定やチェック・オフ制度も労使自治の範疇に入るもので、政治や外部の介入があってはならないものなのだ。労働組合は、何事にも政治や外部勢力の介入を許してはならない。あえて言えば、春闘における賃上げも、政党や外部の応援はあったとしても労使交渉以外の場で決められることがあってはならない。労使が汗を流して交渉を通じて解決することこそが労働運動の基本だからである。
それとも中国共産党の指導者であった鄧小平が述べた有名な言葉【黒い猫でも白い猫でもネズミを捕るのがよい猫だ】(計画経済であれ市場経済であれ資源配分の手段の一つに過ぎず、政治制度とは関係がない。資本主義にも計画はあり、社会主義にも市場はある。生産力の発展に役立つのであれば、実践の中で使用すればいいという考え方をいう。これを春闘を例にしていえば、どのような方法や交渉形態であっても、賃上げができればなんでもいい)のように考えるのが正しいということになる。
政府が労働組合運動に介入することを認めれば、政府から賃上げの自粛を求められたら従うことを意味する。
今年登場した高市内閣は、日本経済の発展を図るため、経済発展のためには「賃上げ」は欠かせないものとして「賃金の引上げ」を主張している。
春闘が始まってこの方、労働組合は交渉のたびに、「賃上げで内需拡大を図れ」と主張してきた。しかし、これに対して経営者側は「賃上げはマクロの経済論よりも、ミクロの企業業績で判断すべき」と主張、頑として組合の主張を認めようとはしてこなかった。
それが今になって組合の主張を認める態度に終始する。今までの理論はどこに行ってしまったのか。矛盾極まりない状況が起きているのである。
もし今の発言が正しいのなら、過去の主張は間違いであったということになる。過去の主張が間違いであったことの反省もなく、平然としている様には愕然とするしかない。
多くの人が知っているように昭和30年に始まった春闘は、今日まで多くの環境が変化する中でも整然と進められてきた。
昭和20年、敗戦で荒廃した社会、失業者が町にあふれている状況の中で、多くの国民は働ける場所、生きる(生活する)ための収入を求めていた。幸いにも会社への就職ができた人でも最初は年を越すための一時金を求め、それが労働組合運動のすべてであった。歴史の書類に目をやると、当時の「食える賃金」・「越年資金闘争」のスローガンが眼に入る。労働協約という文字は見当たらない。
労働協約の重要性が労使に認識され始めたのは、遅れること5年、1950年代に入ってからである。
そのため、労使双方に「賃上げ交渉と協約改定交渉は別個のもの」との誤解が生まれてしまい、誤解は今も続いているのである。
日本の労働組合運動は、そのスタートから制度やシステムの重要性を無視して、ひたすら「カネ」だけに関心を示すことになってしまう。そもそも労働協約は、賃金や一時金を含めた社内のあらゆる処遇条件を決めるものなのに、労働協約改定交渉と賃金交渉はまったく別の物という誤解を生じさせたのである。それは必然的に業績が悪化して「カネ」の交渉が難しくなると、即春闘そのものの否定につながってしまうことになってしまった。
賃上げも一時金も労働協約の改定交渉の一環であるなら、環境の変化に合わせて賃上げと制度改定・新設を含めた選択肢から要求を選べる。
労働組合は組合員に何かあった場合に最後の救いの手としての役割がある。だとすれば、その場その場の「カネ」よりも、制度やシステムを充実させることこそが求められている。ただ、組合員から見れば、「カネ」は多い、少ないの違いはあっても全員が対象になるから関心を持つのが道理となる。しかし制度やシステムによって利益を受けるのは限られた対象者だ。どうしても関心が薄く見えてしまう。本当に困ったときに助けられるのは制度によってであることに留意すべきである。時に一万円よりも大事なものがあるのである。
26年春闘を目前に控えて、高市首相の方針に頼った交渉を行うのか、労使がそれぞれ独立した立場で交渉を進めるのか、労使はその答えを出さなければならない。
この記事を書いた人
鈴木 勝利
Suzuki Katsutoshi
元連合副会長・元JCM議長(現顧問)
元電気連合委員長(現名誉顧問)
2012年春の叙勲において旭日重光章を受章。

