道しるべ#6「道元禅師の教訓に学ぶ仕事に臨む気構え」

2026.09.21 


このコラムでは、元電機連合 書記長、元東芝労働組合 中央執行委員長、
東芝グループ連合初代会長として、長年にわたり労働組合の現場と向き合ってきた泉田和洋が、自身の経験をもとに、今の組合役員や組合員と一緒に考えていきたいことを綴ります。


少し前のことになりますが、ある研修会で年齢により役職を外れたという方から、「私は60歳になり、役職を外され、仕事の内容も変えられました。これまでの部下から指示を受けるようにもなり、今の仕事に対して全くやる気が起きません。やる気を起こすにはどうしたら良いでしょうか」という質問をいただきました。

この質問に関連して「自分に与えられた(任された)仕事に臨む時の気構え」について、曹洞宗(永平寺)を興した道元禅師によって伝えられた「典座(てんぞ)教訓」という教えをもとに考えてみたいと思います。(典座教訓の解釈には種々ありますが、以下は私の解釈によるものです)

はじめに、「典座教訓」について触れさせていただきます。
1223年(貞応2年)、23歳の若さで仏道修行のために宋にわたった道元禅師(27歳で帰国)が宋の天童山景徳寺で修行していた時に、一人の年老いた典座(てんぞ=禅宗の寺院において修行僧や仏への供膳を調理・管理する責任者の役を担う僧)が、ある暑い日に一心にキノコを干している姿を見かけます。その姿があまりに大変そうだったので道元禅師が次のように話しかけます。

「その仕事を一人でなさるのは大変でしょうから、誰かに手伝わせてはいかがですか」と。この話しかけに老典座は、「他(た)は是(こ)れ吾(われ)にあらず!(自分に任された役割を他の者にさせてしまっては自分の修行にならない)」と答えます。
続けて、道元禅師が、「ではこんな暑い時ではなく、もう少し涼しい時に仕事をされてはいかがですか」と言います。
すると、老典座は、「さらに何れの時をか待たん(人の一生という時間は限られている。従い、今やるべき事は今やらなければならない。後回しにしている余裕はない)」と答えます。

老典座とのこのやり取りを通して、道元禅師は修行の何たるかを悟ることができたとされます。この時に老典座が答えた「他(た)は是(こ)れ吾(われ)にあらず、さらに、いずれの時をか待たん」という言葉が、「道元禅師の典座教訓」として今に語り継がれています。

この言葉を現代風に解釈すれば、「自分の心を磨き続け、自分を限りなく成長させていくためには、自分に与えられた(任された)『こと(仕事)』は、他人任せにするのではなく、自分がやらないでどうする。さらに、有限である一生という時間を考えれば、今やるべきことを今やらないでどうする」ということになるでしょうか。

さらに厳しく言えば、この言葉は、何事も「こと」にあたる時は、このような「気構え(心構えや覚悟)」をもって臨めということを教えてくれているように思います。

年齢によらずとも仕事が変わるということ、あるいは、年齢により役職が外れるということは、私にも経験があることから、この方の質問は良く理解できました。そこで、私からは先の「典座教訓」の解釈と私の経験を交えて次のように話をさせていただきました。

「私は、これまでの経験から世の中には必要でない仕事はないと思っています。もし、仕事の内容に軽重をつける人がいるとすれば、それはその人自身の気持ちがそうさせているだけのことだと思います。
その意味で、仕事が変わったとしても仕事を続けさせていただけること、また、給料をいただけることは本当に有難いことと思います。
新たに就いた仕事に対しても、これまで培ったノウハウを活かし、責任を持って前向きに臨めば、必ずやご自身の新しい成長を感じることができるものと思います。
さらに、仕事が変わったことを一つの区切りとして、これまで背負っていた重い荷を下ろし、これまでやりたいと思っていたこと、あるいは、新しくやりたいと思うことにチャレンジするという気持ちに切り替え、より魅力ある自分づくり・生き方づくり、私は、このことをパーソナルアイデンティティづくりと呼んでいますが、そのようなことに力を入れていくという考え方もあると思いますがいかがでしょうか」と。

質問された方からは、「有難うございました。明日からそのような気持ちでやってみたいと思います」と、少し明るい声で返事をいただき、内心、ホッとしたことを思い出します。
その後も、雇用延長制度のもとで仕事を継続されている方から、同様の質問(相談)をいただくことがありますが、都度、先のような話をさせていただき、時々は息抜きをしながら、しっかりと前に進んでいただくようお願いをしています。

「他(た)は是(こ)れ吾(われ)にあらず、さらに、いずれの時をか待たん」。この言葉は、年齢を問わず私たちにとっての人生訓でもあるかもしれませんね。
何かの時にお役に立てていただければと思います。

この記事を書いた人

泉田 和洋

Kazuhiro Izumida


j.union株式会社 顧問
元電機連合 書記長
元東芝労働組合 中央執行委員長
東芝グループ連合 初代会長
元株式会社コンポーズ・ユニ代表取締役社長

泉田 和洋