配置転換に納得できないと言われたら?労働組合が押さえたい対応のポイント

2026.07.06 
 

「突然、未経験の部署へ異動になった」

「これまでの経験が活かせない配置転換に納得できない」――。

人事異動の時期には、こうした相談が労働組合へ寄せられることがあります。

 

一方で、組合役員としては、「人事異動は会社の権限ではないのか」「どこまで組合として関われるのか」と悩む場面も少なくありません。

 

配置転換への相談を受けた際、労働組合が確認したいポイントは大きく3つあります。

「労働契約上どのような取り決めになっているか」

「配置転換に合理性があるか」

「本人は何に不安や不満を感じているのか」です。

本コラムでは、これらの観点から組合対応のポイントを整理します。

 

 

1. 配置転換は会社の権限。ただし自由に行えるわけではない

 

人事異動や配置転換は、一般に企業が持つ「業務命令権」の一つとされています。
そのため、一定範囲で会社の判断が認められるのが基本です。

 

ただし、会社の判断であればどのような配置転換でも認められる、というわけではありません。

配置転換が適法とされるためには、主に次の2点が重要になります。

 

・労働契約の内容と矛盾していないこと

・権利濫用に当たらないこと

 

つまり、「契約上問題がないか」と「配置転換に合理性があるか」の両面から考える必要があります。

 
 

2.まず確認したいのは「労働契約の内容」

 

配置転換の相談を受けた際、最初に確認したいのが労働契約の内容です。

 

労働契約では、賃金や労働時間だけでなく、

 

・どこで働くのか(就業場所)

・どのような業務に従事するのか(業務内容)

 

といった条件も重要な要素になります。

 

特に近年は、職務内容を限定する「ジョブ型雇用」への関心も高まっており、業務範囲を明確にした契約が増えつつあります。

たとえば、特定の職種や専門業務を前提として採用された場合、その範囲を大きく超える配置転換は、契約内容との整合性が問題になる可能性があります。

 

そのため、組合員から相談を受けた際は、

 

・労働条件通知書

・雇用契約書

・就業規則

 

などを確認し、どのような条件で契約しているのかを整理することが重要です。

 
 

3.2024年改正で「変更の範囲」の明示が義務化

 

2024年4月施行の制度改正では、労働条件明示のルールが見直されました。

これにより企業には、就業場所や業務内容だけでなく、

「変更の範囲」についても明示することが求められています。

 

つまり企業は、採用時点などで、

 

・将来的にどの範囲まで異動の可能性があるのか

・どのような業務変更があり得るのか

 

を示す必要があります。

 

この改正によって、配置転換に関する説明責任や、契約内容の確認の重要性は、これまで以上に高まっていると言えるでしょう。

※なお、この改正は施行以前に締結された契約へ遡って適用されるものではありません。

 
 

4.契約上問題がなくても「権利濫用」が問われることがある

 

仮に配置転換が契約範囲内であったとしても、それだけで常に有効になるわけではありません。

過去の判例では、次のようなケースについて、「権利濫用」と判断される可能性が示されています。

 

・業務上の必要性が十分でない

・本人への不利益が著しく大きい

・不当な動機や目的が疑われる

 

たとえば、実質的な嫌がらせと受け取られるような異動や、本人の事情への配慮を欠いた配置転換などは、問題となる可能性があります。

そのため、組合としては「会社の権限だから仕方ない」と整理するのではなく、異動の背景や必要性を丁寧に確認していく視点も重要になります。

 
 

5.労働組合に求められるのは「感情」と「事実」の整理

 

配置転換への不満は、単に業務内容の問題だけではありません。

 

・将来のキャリアへの不安

・職場環境の変化

・人間関係への懸念

・自分の経験が活かせないことへの喪失感

 

など、さまざまな感情が重なっていることも少なくありません。

 

そのため、組合対応では、まず本人の話を丁寧に聞きながら、

 

・何に不満を感じているのか

・契約上の論点はどこか

・制度上どのような対応が可能か

 

を整理していくことが大切です。

 

感情面への寄り添いと、事実関係の整理を切り分けながら支援していくことが、組合の重要な役割と言えるでしょう。

 
 

6.配置転換を「キャリア形成」の視点で考える

 

近年は、人手不足や労働力人口の減少を背景に、多くの企業で「既存人材をどう活かすか」が重要な課題になっています。

その中で配置転換は、単なる人員調整ではなく、

 

・人材育成

・キャリア形成

・組織活性化

 

といった観点とも深く関わるテーマになっています。

一方で、働く側にとっては、「自分のキャリアをどう築いていくか」という視点も欠かせません。

 

だからこそ今後は、会社主導で異動を行うだけでなく、

 

・社内公募制度

・自己申告制度

・キャリア面談

・職種転換支援

 

など、働く側の意思を反映しやすい仕組みづくりも重要になっていくでしょう。

こうしたテーマを労使で継続的に話し合っていくことも、労働組合の大切な役割の一つです。

 
 

まとめ|配置転換の相談は、組合の役割を発揮する機会

 

組合では、組合員からの配置転換をめぐる相談において、

 

・労働契約の確認

・制度や法的観点の整理

・本人の納得感への配慮

 

をバランスよく進めていくことが求められます。

 

労働組合には、目の前の不満に対応するだけでなく、一人ひとりのキャリアや働き方を支えていく役割もあります。

配置転換に関する相談は、その役割を具体的に発揮する重要な機会と言えるでしょう。

 
 
 
 

この記事を書いた人

 

池上 元規

社会保険労務士法人 j.union代表社員、社会保険労務士


私たちは、j.union株式会社の関連会社として、労務問題を専門に支援しています。中立的な視点から労働組合と企業の双方のメリットとデメリットを捉え、最適解を見つける「Be Fair Mind」のスタンスで問題解決を支援します。今後の社会や働き方の変容に合わせて、お客様と共に労務に関する最適な解決策を導き、持続可能な組織体制づくりに貢献していきます。

池上 元規