このコラムでは、元電機連合 書記長、元東芝労働組合 中央執行委員長、東芝グループ連合初代会長として、長年にわたり労働組合の現場と向き合ってきた泉田和洋が、自身の経験をもとに、今の組合役員や組合員と一緒に考えていきたいことを綴ります。
現在も、労働組合や労使による「メンタルヘルス」への取り組みが進められている中、「メンタルヘルス」が理由で、「休職した、あるいは、する」という話を聞きますと「何故、そうなる前に誰かに相談されなかったのか」と残念でもったいない気持ちになってしまいます。
一方、「休職から復帰して元気に仕事をしている人」を見ると、「良かった」と思うと同時に、「もうあまり無理しないように、頑張りすぎないように」と思ってしまいます。
そんな思いから、昔を振り返りながら、「私が思うメンタルヘルスへのこころがけ」をお伝えし、お一人おひとりが「生活を、また、仕事を活き活きと続けるため」の参考にしていただければと思います。
振り返りますと、労働組合や労使によるメンタルヘルスへの取り組みは、1980年代に入って本格化していったように思います。その背景には、当時、次のような現象が社会的課題として取り上げられたことにあります。
- 1.日常の職場生活でストレスを訴える人が6割を超え、とくに、ME(マイクロエレクトロニクス)導入職場では、「テクノストレス」により、抑うつ・将来不安・慢性疲労・労働意欲の低下・イライラ・身体不調を訴える率が予想以上に高く、労働環境改善の必要性とメンタルヘルス(精神健康)への関心が高まっていた。
- 2.こころの病の増加の背景として、「職場でのコミュニケーションの機会の減少」「職場での助け合いの減少」「個人で仕事をする機会の増加」が指摘されていた。
- 3.技術者・研究労働者を対象とした調査では、急速な技術革新により幅広い知識が求められる一方で、仕事の専門化が進み、納期や長時間労働に追われ、新たな知識を習得する余裕も失われつつある実態が明らかになった。その結果、「技術者・研究者として将来も働き続けられるのか」という不安や、残業規制のあり方、メンタルヘルスへの対応が重要な課題として顕在化した。
こうした課題の改善・解決に向け、この時期、多くの労働組合や労使がメンタルヘルスへの取り組みに動き出しました。「テクノストレス」という真新しい言葉が使われ始めたことを、今でもよく覚えています。
このような中、私(の労組)は、「年休切り捨てゼロ運動」とあわせて、次のような取り組みを推進しました。
- ・労働組合主催による、組合員・従業員を対象とした精神科医によるメンタルヘルス講習会の定期開催
- ・『頑張るために休む時代のゆったり読本(余暇活用ハンドブック)』の発行
- ・安全衛生委員会によるメンタルヘルス活動の強化・推進
取り組みの中では、「医学的な見地(メンタルヘルスを左右する自律神経、交感神経、副交感神経等に関する知識)」を踏まえながら、難しく、努力がいることではありますが、「メンタルヘルスへの日ごろからのこころがけ」として、組合員・従業員の皆さんには、とくに次のようなことをお願いしました。
- 1.活き活きとした生活や仕事を続けていく上では、緊張と緩和のオン・オフ(メリハリ)が絶対に必要なこと。
- 2.私たちの心身には定格(それぞれの人が持つ心身のキャパシティ)があり、その心身に負荷をかけ過ぎて定格オーバーで心身のヒューズを切らさないようにすること。とくに、こころのヒューズを切らさないようにすること。
- 3.「いつも読んでいる新聞等を読みたくなくなった」、「楽しみにしているテレビ番組等を観たくなくなった」、「人と話すこと、人に会うことが億劫になった」、「夜、眠れなくなった」というようなことが続く場合は、心身のヒューズが切れかかっている(生活ならびに仕事への意欲を低下させる“うつ的症状”が忍び寄ってきている)前兆ととらえ、すぐに、上司、仲間、家族に相談し、無理やりにでも休んで気分転換を図ること。
このお願いによる効果がどれほどあったかはわかりませんが、労働組合にメンタルヘルスについての相談が増えたことは確かでした。
いろいろと申し上げましたが、現役の皆様には、先に紹介の「こころの病の増加に深く関係しているのは、“職場でのコミュニケーションの機会の減少”、“職場での助け合いの減少”、“個人で仕事をする機会の増加”である」といった状況を引き起こさないための組織的な対応・対策を是非とも継続していっていただきたいと思います。
この記事を書いた人
泉田 和洋
Kazuhiro Izumida
j.union株式会社 顧問
元電機連合 書記長
元東芝労働組合 中央執行委員長
東芝グループ連合 初代会長
元株式会社コンポーズ・ユニ代表取締役社長

